みえの推し活!【JR名松線】90年の歴史と絶景!JR東海 沖担当課長と巡るローカル線の旅
掲載日:2025.11.26
松阪駅から山間部へと分け入り、津市美杉町の伊勢奥津(いせおきつ)駅までを結ぶ「名松線(めいしょうせん)」。雲出川(くもずがわ)の清流に沿って走り、風光明媚な車窓が楽しめるローカル線であり、2025年12月に開業90周年という大きな節目を迎えます。この記事では、鉄道の内側を知り尽くしたJR東海 沖担当課長が、開業90周年を機にもっと知ってほしいと推す、ユニークな見どころ・旅の楽しみ方を深掘りします。
▼目次
シリーズ「みえの推し活!」
「みえの推し活!」では、三重県内の観光を支える事業者、観光協会、市町などで構成される三重県観光連盟「事業企画・宣伝委員会」の皆さんが紹介する、"中の人"たちの「推し」を深掘り取材。
中の人だからこそ知りうる情報や熱い想いを通じて、三重県の新たな魅力を発見していきます。
- 第1弾:【鳥羽水族館】 “ダイオウグソクムシ”ブームの火付け役 飼育係・森滝さん イチ推しの「へんな生きもの」に会いに行こう!
- 第2弾:【鈴鹿サーキット】 アトラクションだけじゃない!レーシングコースの魅力を体感しよう!
- 第3弾:【おかげ横丁】おかげ横丁の招き猫たち。その魅力を招き猫専門店「吉兆招福亭」の澤田店長に伺います
- 第4弾:【伊賀の里モクモク手づくりファーム】肉厚ジューシーな「原木椎茸」の摘み取り体験 炭火で焼いて味わおう!
【名松線を知る】なぜ名張でなく美杉町奥津へ?路線名の秘められた経緯
JR名松線の始点「松阪駅」に停車するキハ11形(一両編成・ワンマン運転)
名松線はその名前の通り、当初の計画では、名張と松阪を結び、名張からさらに関西方面の路線と接続して、関西と伊勢を結ぶ役割が期待されていました。
しかし、1935年に松阪から伊勢奥津まで開業したものの、残りの伊勢奥津から名張間が、険しい山越えの難所だったことや、参宮急行電鉄(現在の近鉄)が、先に名張経由で大阪と伊勢を結ぶルートを完成させたことなどから、残りの区間は建設されず、伊勢奥津が行き止まりの終着駅となりました。
この名張へ繋がれなかったという歴史こそが、名松線がユニークな趣きを持つ理由なのです。
現在の名松線は、ご利用者の大半が白山高校の生徒というJR東海でも随一のローカル線となっています。
JR東海 沖担当課長と巡る!名松線90年の歴史と推し
今回、名松線を皆さんにもっと知ってほしい、乗ってほしいと「推し」ポイントをご紹介くださるのは、観光キャンペーンや沿線地域の活性化などをご担当されているJR東海運輸営業部の沖担当課長。
沖担当課長は2004年にJR東海入社後、総務・人事と営業にそれぞれ10年ほど携わられ、新幹線の車掌や運転士といった乗務のほか、三島駅(静岡県)の駅員としても勤務されてきました。
今年(2025年)名松線は開業90周年を迎え、この90周年にちなんだ、さまざまなイベントを沖担当課長が企画・調整されていらっしゃいます。
そんな豊富な現場経験を持つ沖担当課長だからこそ知る、名松線のユニークな安全運行や地域の魅力など、推しポイントをご紹介いただきます。
旅の始まり。松阪駅と「あら竹」の名松線開業90周年記念駅弁
「松阪駅」5番のりばに停車する「伊勢奥津」行きワンマン列車
名松線の始発駅である松阪駅は、近鉄と駅舎を共同利用しており、名松線は「5番のりば」から発着します。
名松線は交通系ICカードの利用ができないため、あらかじめ目的の駅までの切符を購入するか、乗車時に車内で整理券をお取りのうえ下車時に精算が必要です。
「推し活」旅のお供に、松阪駅名物「あら竹」の駅弁
松阪駅でぜひお立ち寄りいただきたいのが、創業明治28年、三重県で唯一の駅弁屋である「あら竹」さん。
フタを開けると、童謡「ふるさと」のメロディが流れる「モー太郎弁当」が有名です。
松阪駅構内の売店は、駅弁のほか、牛肉のしぐれ煮や赤福などお土産の取り扱いもあります
松阪駅構内の売店は、JR改札側(南口)横にあり、改札の内・外の両方からお買い物をすることができます。
あら竹さんでは、 名松線開業90周年記念のかけ紙で包装した「元祖特選牛肉弁当」が2025年12月1日から発売されます。
この機会にぜひともご賞味ください。
名松線開業90周年記念のかけ紙で包装した「元祖特選牛肉弁当」は、2025年12月1日から販売開始です
【推し①】鉄道の原風景! タブレットキャリアの受け渡し
まず、名松線で注目していただきたいと沖担当課長が話されるのが、駅員さんが運転士さんにタブレットキャリアを手渡す光景です。
松阪駅でタブレットキャリアを手渡す駅員さん。これが届かないと発車できません
鉄道の安全運行において、一定の区間に進入できる列車を1本のみに制限し、衝突や追突を防ぐ仕組みを「閉塞管理」といいます。
JR名松線では、この閉塞管理に「通票・スタフ閉塞式」と呼ばれる、現在では全国でもごく一部のローカル線にしか残っていない手動の方式を採用しています。
この通票やスタフとは、いわゆる「通行手形」のことであり、通行手形を持った車両のみが許可された区間に入線可能となります。
この通行手形を入れた「タブレットキャリア」の受け渡しが、始発駅の松阪駅と、列車の行き違いを行う家城(いえき)駅で行われ、名松線の安全運行が守られています。
家城駅では、松阪駅から来た下り列車と、伊勢奥津駅から来た上り列車とで、タブレットの交換が行われます
「駅のホームでタブレットキャリアを手渡しする光景は、自動化が進んだ現代の鉄道において失われた、鉄道の原風景の一つです。名松線に乗車するときには、ぜひとも注目していただきたいポイントです」と沖担当課長は語ります。
走行中は、タブレットキャリアを運転席に吊り下げています。
【推し②】JR東海随一の絶景!雲出川渓谷の四季と車窓
続いての推しポイントは、家城駅を過ぎたあたりから車窓に広がる、雲出川渓谷沿いの風光明媚な里山風景です。
行き違い停車を行った家城駅を過ぎると、「ここから一気に景色が変わっていきますよ」と沖担当課長が教えてくれます。
その美しさは「JR東海随一」と、沖担当課長が太鼓判を押すほど。
列車は何度も鉄橋を渡り、そのたびに景色は少しずつ表情を変えていきます。春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季折々の景観が楽しめるのも大きな魅力です。
また、この区間は野生動物の出現も多く、鹿を避けるための減速ポイントがいくつかあります。
もし名松線に乗車した際、列車が予期せぬ場所で減速したり、警笛を鳴らしたりしたら、それは運転士が鹿の姿を見つけ、安全運行に努めているサインなのかもしれません。
野生動物への注意のほか、カーブや勾配がきつく細かい速度調整が欠かせないことや、秋には落ち葉によるスリップにも気を配らなければなりません。
「この区間の運転は、本当に難易度が高いと思います。路線に合わせた運転は、運転士の腕の見せどころですね。車窓の美しさはもちろん、それを守る運行のプロの技術にもぜひご注目いただきたい」と沖担当課長は語ります。
【推し③】終着駅「伊勢奥津」 給水塔と2時間待ちの贅沢
名松線の終点、伊勢奥津駅。
ここには、ローカル線の旅情をかき立てるスポットが詰まっています。
名松線の終着駅「伊勢奥津」のホーム
名松線の歴史を今に伝える「旧国鉄名松線伊勢奥津駅給水塔」
駅のすぐそばには、かつて蒸気機関車(SL)が走っていた時代に使われていた給水塔が、ほぼ当時の姿のまま残されています。
この給水塔は、名松線が開業した1935年以降、SLへ水を補給するために使われました。
SL廃止後も地域のランドマークとして親しまれ、名松線の長い歴史を見守ってきたシンボルです。
そして、その歴史的価値が認められ、2024年には、「旧国鉄名松線伊勢奥津駅給水塔」として、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。
この給水塔を前にすると、自動車が普及する以前、この地域から街へ出る唯一の交通手段であった在りし日の名松線の偉大さと、その役割の重さを改めて感じることができます。
旅人と地域をつなぐ交流拠点「ひだまり」
伊勢奥津駅に隣接する、津市伊勢奥津駅前観光案内交流施設「ひだまり」は、名松線の旅の終着点であり、同時に津市美杉町の観光の出発点となる観光案内交流施設です。
美杉町の特産物やお弁当、名松線グッズの販売を行うほか、名松線の歴史に関する写真や資料の展示、休憩処を兼ねており、旅行者と地域の方の憩いの場です。
この「ひだまり」で購入できる沖担当課長イチオシのお土産は、あまごの燻製「いぶり焼」。
伊勢奥津訪問の際には必ずお土産にするという逸品です。ぜひ旅の思い出にいかがでしょうか。
あまごの燻製「いぶり焼」。ご飯のお供にはもちろん、辛口の日本酒の肴としてもおすすめとのこと。
次の列車まで2時間。ゆったりと時間を楽しむ
名松線の終点、伊勢奥津駅。松阪から約1時間半かけて辿り着いた列車は、10分から30分程度の短い停車時間で、慌ただしく松阪方面へと折り返していきます。
伊勢奥津駅の周辺散策のために、もし帰りの列車を1本見送ると、次に発車する列車は、約2時間後となります。
給水塔を見学したり、ひだまりに寄ったり、かつて伊勢神宮への参拝客で賑わった「伊勢本街道」の宿場町「奥津宿」の町並み散策をしたりしてもまだ時間が余るかもしれません。
そんな時は、駅前のベンチに腰掛け、ただ「何もしない」時間を過ごしてほしいと、沖担当課長は提案します。
「ここは本当に静かなんです。山々の緑や紅葉、澄んだ青空を飛ぶトンビを眺め、太陽の傾きを感じる。伊勢奥津駅での『2時間待ち』は、そんな『のんびり』とした時間の過ごし方を教えてくれます」
名松線開業90周年を機に、原風景をめぐるローカル線の旅へ出かけよう
地元の人々に愛され、幾多の廃線の危機を乗り越え90年の歴史を刻んできた名松線。
ガタンゴトンという列車の揺れに身を任せ、車窓に流れる日本の原風景のような景色を眺めるローカル線の旅へ、この節目の機会に出かけてみませんか?
名松線開業90周年記念イベント!
名松線は2025年12月5日に開業90周年を迎えるにあたり、JR東海や津市、沿線の関係者が連携し、2025年11月15日から2026年2月末にかけて記念キャンペーンを実施します。
1. 記念イベント&終着駅サミットを12月7日伊勢奥津駅にて開催
2025年12月7日(日)に伊勢奥津駅周辺にて、名松線開業90周年を記念したイベントと、終着駅である同駅での終着駅サミットが同時開催されます。。
90周年の記念ロゴをヘッドマークとして掲げた装飾列車の出発式が行われるほか、記念式典や講演会、シンポジウムが開催されます。
また、伊勢奥津駅前マルシェ&BALとして、地元特産品の販売や飲食ブースのほか、JR公式名松線グッズの限定発売や、駅弁のあら竹による記念駅弁の販売などが行われます。
2. 記念装飾の開催や、鉄道用品等のオークション販売
2025年11月15日から、2026年2月28日にかけて、津市の小学生から募集した名松線にまつわるイラスト等を松阪駅や車内、津市美杉支所に展示しています。
このほか、名松線ゆかりの鉄道用品等のオークション販売や、乗務員・駅係員による記念バッジの着用など、さまざまな企画が展開されます。
JR名松線 時刻表(2025年11月現在)
※2025年11月現在の時刻表です。お出かけの前に、最新の時刻表をご確認ください
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