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【美し国・三重 自転車道中記:津市美杉編】新緑の丘を越え伊勢本街道の宿場を訪ねる

掲載日:2019.06.05

三重の県都・津の最西端にある美杉。新緑の季節に色鮮やかな青葉色に染まる豊かな森林があり、町を縫うように雲出川が流れる自然豊かなエリアで、空気がきれいで交通量が少なく、サイクリングを楽しむには最高のフィールドです。今回はそんな美杉の魅力を堪能でき、ほどよく走りごたえもあるオススメコースを紹介します!

「美し国・三重 自転車道中記」とは?

三重県生まれ三重県育ちの自転車ライター・浅野真則が、三重県の魅力を自転車で巡りながら紹介します!

■旅人 自転車ライター・浅野真則
自転車歴およそ20年。三度の飯+おやつと同じぐらい自転車が好き。自転車を愛するあまり、フリーの自転車ライターに転身。仕事と称して自転車に乗り、プライベートでもレースやロングライドを楽しむ。

三重の県都・津の最西端にある美杉。
新緑の季節に色鮮やかな青葉色に染まる豊かな森林があり、町を縫うように雲出川(くもずがわ)が流れる自然豊かなエリアで、空気がきれいで交通量が少なく、サイクリングを楽しむには最高のフィールドです。
また、大阪と伊勢を結ぶ伊勢本街道とその宿場町が往時の面影を残すなど、見どころや写真映えするスポットもたくさんあります!
今回はそんな美杉の魅力を堪能でき、ほどよく走りごたえもあるオススメコースを紹介します!

コース:津市美杉町内
走行距離:43.1km
難易度:★★★☆☆

序盤は上り下りをジェットコースターのように楽しめる

道の駅・美杉

何を隠そう、僕は三重県津市出身で津をこよなく愛しています。
今回紹介するコースは、僕がよくトレーニングやサイクリングで走るコースの一部です。自転車乗りにとって美杉の最大の魅力は、交通量が少なくて走りやすいことでしょう。
しかも、自然豊かで景色が美しく、走っていて癒やされます。川沿いや森の中を走るコースが多く、標高も高めなので、これからの時期は涼しく走れるのもポイントです。
今回のコースは道の駅・美杉を発着点とする全長43kmほどの周回コース。輪行される場合はJR名松線(めいしょうせん)の伊勢奥津(いせおきつ)、伊勢鎌倉、伊勢八知(いせやち)の各駅を発着点にするのがオススメです。

道の駅・美杉は、上多気の国道368号沿いにあります。近くには紅葉の名所として知られる北畠神社もあります。道の駅周辺は山に囲まれていて、空気がおいしい気がします。さらに津市街と比べると気温も少し涼しく感じます。今回は自称晴れ男の僕一人での取材。最高のサイクリング日和になりそうです!

今回のコースはスタート直後に上りがあり、全体的にアップダウンも多めなので、スタート前にそれなりにエネルギーを補給しておくことをオススメします。
ドリンクや水の補給は、コース沿いの至るところに自販機があるのでそれほど困らないのですが、食料を補給できるポイントはやや限られるという理由もあります。というわけで、自転車を駐輪スペースのバイクラックにかけ、ロックを締めて道の駅に向かいます!

早速道の駅をのぞいてみると、おいしそうなお弁当やお菓子が売られています!
道の駅の方にオススメをうかがったところ、津市でとれたお米や山菜で作った山菜おこわと、これまた津市でとれた餅米とヨモギを使ったよもぎ餅をプッシュしてくださいました。
山菜おこわは、筍やゼンマイなどの素材の風味を生かすあっさりとした味付けが実に味わい深く、素朴ながら非常に美味でした!
さらに食後にいただいたよもぎ餅は餅がとても柔らかく、かむごとにヨモギのさわやかな香りと餡の甘さが口の中に広がり、まさに“口福”なひとときを味わいました。
お弁当では季節もののあまごの炊き込みご飯もありました。また近いうちに訪れて食べたいな、と思う食いしん坊な僕でした。

飼坂峠(かいさかとうげ)
さて、エネルギーが満タンになったところで、ぼちぼちスタートしましょう。
道の駅を出て国道368号に出たら左折し、まずは伊勢奥津方面に向かいます。国道に出てすぐ、右手に手書きの「天然水」の看板が見えました。気になったので立ち寄ってみましょう。
看板の説明によると、この天然水は、道の駅のはす向かいにある「旬のお食事処・みすぎ」の敷地内でくみ上げたもの。その場で飲む分には無料、ボトルやポリタンクにくむ場合は有料とのことです。
飲んでみるとクセがなくてとてもおいしい!そこでボトルにくんで持って行くことにしました。備え付けの料金箱にお金を入れ(ボトルの場合は1本10円)、ボトルいっぱいに水を補充し、これで準備もバッチリです!

上多気の信号交差点までは下りですが、目の前には早くも上りが見えています。しかも道がまっすぐで見通しがよく、行く先が見通せてしまう上になかなかピークが近づいてこないように感じるサイクリストにはつらいタイプの上りです。
とはいえ、上多気の信号交差点からピークのトンネルまでは1kmほどなので、それほど長くはありません。序盤の200mほどはゆるい上りで、その後はきつい上り200mほど→中休み150mほど→きつい上り150mほど→中休み100mほど→最後のきつい上り200mほど……という感じで、きつい上りと緩斜面が交互に現れるいわゆる3段坂です。
そこでこの上りの攻略法を伝授します!道の駅を出たら、安全なところで待機し、信号が赤になるのを待ちます。その後、信号が赤になったら安全を確認してスタート。下りで勢いを付けて上り始めると、ちょっとだけ楽です。このとき、脚力に自信がなければ、上りにさしかかる前にフロントのギヤをインナー(内側の小さい方)に変速し、リアのギヤを少し重くしておくとバッチリです!
上りにさしかかったら、ギヤが重すぎると感じる前に早め早めに軽いギヤに変速しましょう。
もうひとつ大事なことは、まだスタートしたばかりなので頑張りすぎないこと!時間がかかってもいいので、軽いギヤをクルクル回しながらのんびり上りましょう。
……ほら、思いがけずあっけなく上れたでしょ?
この先の飼坂トンネルは全長700mほどある上、途中までゆるやかな上り勾配になっています。中央部も照明はありますが暗いので、ライトを付けて安全に走りましょう。

名松線の終着駅・奥津でいにしえの宿場をのんびり探索

奥津(おきつ)宿

飼坂トンネルを抜けると、爽快な下りが待っています!
これは自分の脚で上ったサイクリストだけが味わえるご褒美と言っても過言ではないでしょう!
とはいえ、下りきるまでかなり急勾配でところどころ急カーブもあるので、スピードの出し過ぎにはくれぐれも注意しましょう。
奥津交差点とその先の信号交差点を越えると、斜め左方向に分岐が現れます。この分岐を左に進むと、かつての奥伊勢本街道の奥津宿。格子戸の古民家がところどころに残っており、それぞれの家の前にはかつての屋号が記された行灯や懸垂幕が飾られています。
駅前の「ぬしや」はかつて日用雑貨やタバコなどを売っていた商店だったようで、レトロな看板が味わいがあります。この町には作り物ではないリアルな歴史が残っています。往年の賑わいに思いをはせながら探索するのも楽しいものです。

伊勢奥津(いせおきつ)駅
奥津の宿場町散策を楽しんだら、名松線の終着駅・伊勢奥津駅に向かいます。
ホームの西側には車止めがあり、終着駅であることを物語っています。車止めのさらに西側には、蒸気機関車がこのあたりを走っていたころの名残である給水塔も残っていて、駅のシンボルになっています。
これはまさに昭和の鉄道遺産。県外からも多く鉄道愛好家が伊勢奥津駅を訪れるとのことですが、納得です。

せっかくなので、駅の待合室に立ち寄ってみました。なんとスタンプがあるではないですか!
駅で無料配布されている「伊勢本街道・奥津宿地図」にスタンプを押すスペースがあったので、ここにスタンプを押し、記念に持ち帰ることにしました。
出発しようとすると、大阪からやってきた鉄道好きのちびっ子に声をかけられました。
「どこからきたの?自転車に乗ってきたの?列車に乗らないの?」と質問攻めにあいました。

今回は旅のお供の村上さんがおらず、道中はひとりだったので、誰かとお話しできる機会は貴重です。今も昔も、駅や宿場は人の流れが交錯する場所なんですね。お父さんによると、ちびっ子は自転車の補助輪を外して乗る練習中だそう。
「頑張って練習してね」と声をかけて、いつもよりスマートな所作を心がけながら駅を出発しました。
今日駅で出会った自転車乗りの僕を見て、自転車にも興味を持ってくれたらいいなと思いつつ。

丘を越え、川沿いの道を走り美杉の自然を満喫!

奥津~逢坂峠~伊勢八知

伊勢奥津駅を出て再び国道へ。
目の前にある交差道路・路線番号標識を見ると、国道の路線番号が3種類あることに気付きます。実は国道368号は、このあたりでは国道369号と国道422号との重複区間になっているそうです。
3本の国道が重複する区間は全国的にも珍しいうえ、標識では最も国道番号が若いものだけを表示することが多いそう。
しかし、ここは律儀に3つの国道すべての交差道路・路線番号標識があるのです!気になる人には気になる、小ネタでした。

3路線が重複する国道を御杖方面に向かいます。
上り基調のアップダウンがある道を西進すると2kmほどで片側1車線で中央線のある立派な道と交差します。この交差点を右折すると、逢坂峠への上りが始まります。逢坂峠のピークまでは2km弱で、最初に最大勾配10%程度の短めの2段坂を上り、その後しばらく下って緩やかにもう1本上るというコースプロフィールです。
決して長くはありませんが、勢いで上りきれるほど短くもないので、サイクリングを楽しむなら軽めのギヤを選んで脚をクルクル回しながら上るのがオススメです。

峠を越えたらしばらく下り基調!かなり勾配がきつい区間があるのでスピードには注意しましょう。
県道667号をしばらく道なりに進みます。八知に入ると右手に雲出川が現れます。温泉やプール、ホテルなどを併設する美杉リゾートを右手に見ながら川沿いを走り、トンネルの手前で右折し旧道へ。
国道との合流地点をさらに直進すると、雲出川沿いに木陰の中を走れる涼しくて気持ちのいい旧道を走れます。この道は夏場も涼しくてオススメです!
振り返ると山並みも美しく、秋にはこの山々が紅葉するのでまた趣があります。交通量も非常に少ないので、一休みするにもいいですよ。

次の目的地は君ヶ野ダムですが、その前にちょっと路地裏散策。
竹原地域住民センター付近の信号のない交差点を右折するとJR名松線の高架をくぐるポイントがあるのですが、桁下の高さがわずか1.8mしかありません!
最初に通るときはちゃんと通れるかヒヤヒヤしますが、よほど背が高い人でなければサドルから腰を浮かせて自転車の上で立たない限り大丈夫でしょう!
タイミングがよければ列車の通過するタイミングで高架をくぐれるかも?

君ヶ野ダム
路地を抜けて県道29号に出たら右折。ここから君ヶ野ダムまでは1.5kmほど上ります。
序盤に結構急な上りがあり、緩斜面を上りながらヘアピンカーブを2回曲がり、最後もややきつい勾配があります。レースではないので、ここも速く上らなくても大丈夫。
軽めのギヤをクルクル回しながらマイペースで行きましょう!2つめのヘアピンカーブからは遠くの山並みが望めます。
しかもこのあたりは新緑もきれい!ゆっくり景色を楽しみながら上りましょう。

上り切ったところには君ヶ野ダムがあります。
ダムの上流には君ヶ野ダム湖もあり、湖岸は桜や紅葉の名所として知られます。僕は毎年桜や紅葉の時期には必ずここをサイクリングしていました。
取材時は新緑が映えてこの時期も僕は好きです。ダムの上を自転車で渡ることもできるので、せっかくですから見に行ってみましょう。

ダムの中ほどまで来たら西側に注目してください。
先ほど上ってきた道が一望でき、最初のヘアピンカーブを走っている車がとても小さく見えます!「こんなに上ったんだ!」とぜひ実感に浸ってください。

東屋(あずまや)
君ヶ野ダム湖を過ぎ、八手俣(はてまた)川沿いを下流に向かって南下します。
紅葉の名所である北畠神社を過ぎ、更に行くと、旧伊勢本街道に交わります。石造りの立派な常夜灯が目印です。
このあたりは多気宿という宿場跡。常夜灯の近くにはかつて宿だった建物が往時の面影を残しています。街道を東に進むと、古民家が所々に残っていて、かつての屋号を示す行灯が軒先に置かれています。
昔街道を歩いて旅した人の気分になってのんびりと探索すると、町のはずれに趣のある建物が見えてきました。
建物の前には「ようかん」ののぼりもあります。明治から続く老舗のようかん屋さん、東屋さんです。たっぷり上って小腹が空いたので、休憩していきましょう。


古い木戸を開けると、元気な奥様が「いらっしゃい! 自転車でいらしたの?」と気さくに声をかけてくださいました。
4代目の辻井孝子さんです。自転車で来たことと、このあたりの取材をしていることをお話しすると、辻井さんのお母様の中川康代さんも顔を出してくださいました。
今は親子二人で店を切り盛りしているそうです。

「せっかくだから厨房も見て行かれますか?今日はようかん作りはお休みですけど」と辻井さん。
貴重な機会なので見せていただきます。厨房の中央には昔ながらの竈があり、ガスではなく薪で材料のうずら豆を炊いたりあんを煮詰めたりするのだそうです。厨房の壁や竈が全体に黒っぽいのは、薪のすすで自然にすすけたからだそうです。
「うちは娘で4代目で代々ようかん一本でやってきてます。作り方は基本的に昔から変わってなくて、うずら豆をこしあんにするところから全部手作りなんです。女性にはかなり重労働ですが、この素朴な味を愛してくれる人も多いのでできる限り続けていきたいですね」と中川さん。

ようかんは素朴なデザインの紙箱入りで、3本600円でした。
味は緑色の普通のようかんと、淡いだいだい色のゆず風味の2種類あります。
店の中にもくつろげるスペースがあるのですが、取材日は川面をなでるそよ風が気持ちよかったので店の表に出て、店の前の木製のベンチに腰掛け、2つの風味のようかんを1本ずついただきます。どちらも甘さ控えめ、ゆずの方はさわやかなゆずの香りがいいアクセントになっています。

「うちのようかんは本当に素朴で写真映えしないので、若い女性のお客さんはほとんどいないの(笑)。自転車の方とかバイクの方は遠方からもよくいらっしゃいますよ。」と辻井さん。
ようかんは道の駅美杉でも購入できるのですが、僕としてはぜひお店で購入し、中川さんと辻井さんとのおしゃべりを楽しみながらお店でいただくことを強くオススメします!

火の谷温泉 美杉リゾート
今回のサイクリングは東屋から1.5kmほどの道の駅美杉に戻ったらフィニッシュです。
楽しく走った後はさっぱりしたくありませんか?
そこで前回のいなべ編に続き、今回もシメの温泉を紹介します!その温泉とは美杉リゾートです!
美杉リゾートには火の谷温泉があるのですが、日帰り入浴もできます。
大浴場や露天風呂、打たせ湯、水風呂などもあって、サイクリングの疲れを癒やし、汗を流すのにぴったりです。宿泊しておいしい料理を楽しめば、旅の楽しみがさらに増えること間違いなし!

火の谷温泉 美杉リゾート
住所:津市美杉町八知5990
電話番号:059-272-1155
日帰り入浴:1,000円(税別)※夏季は1,600円(税別)


美杉は夜には星もきれいに見えるので、星空観察を楽しむのもオススメですよ。
サイクリングだけでなく、街道の宿場町巡りや森林浴も楽しめる美杉。まだ走ったことがない方はぜひ走りに来てください!

【今回のルート】


記事作成/浅野真則

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自転車ライターが行く!美し国・三重 自転車道中記

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