⾥海と⼈が創り出す奇跡の宝⽯。⿃⽻・志摩の真珠にまつわる歴史と今の風景を、EXILE橘ケンチさんが辿る

掲載日:2025.09.30

鳥羽・志摩地域では古くから真珠養殖が盛んに行われてきました。今回は真珠養殖発祥の地である「ミキモト真珠島」にて真珠について学び、真珠養殖工場を元に作られたリトリートステイ「COVA KAKUDA」にて真珠を育む里海を前に、豊かなひと時を過ごします。

真珠

 

「ミキモト真珠島」にて橘ケンチさんが観覧しているのは、7月24日から8月16日まで大阪・関西万博の三重県ブースに展示された「自由の鐘」。 装飾に使われた真珠は12,250個にものぼり、ダイヤモンドや白蝶貝をあしらった精緻な造形にも目を奪われます。自由の鐘は、1939年のニューヨーク万国博覧会にて御木本真珠店が出品したもので、86年もの時を経て、日本開催の万博にて再び展示されることとなりました。

 

橘ケンチさんプロフィール

真珠

EXILE及びEXILE THE SECONDのパフォーマー。2007年二代目J Soul Brothersのメンバーに抜擢、2009年3月1日EXILEにパフォーマーとして加入して以降、所属するLDH JAPANの掲げる「日本を元気に」をテーマに活動。現在は2025年11月15日(土)に始まるドームツアー『EXILE LIVE TOUR 2025 “THE REASON”』の開催が控えている他、先ごろLDH JAPANから6年に一度の〈祭り〉である『LDH PERFECT YEAR 2026』の開催も発表。俳優業に加えて過去には語学力を活かした番組にレギュラー出演するなど多方面で活躍。また、ライフワークとして日本酒の魅力を発信、食のフィールドや地域共生及び社会貢献に対する知見も深めている。2023年SAKEの魅力を網羅した書籍『橘ケンチの日本酒最強バイブル』(宝島社)及び処女小説『パーマネント・ブルー』(文芸春秋)を上梓。2018年13代酒サムライ、2021年福井市食のPR大使、2023年LDH JAPANのSocial Innovation Officerに就任。

【EXILE mobile】https://m.ex-m.jp

「ミキモト真珠島」で知る真珠養殖

 

真珠

 

鳥羽にある「ミキモト真珠島」は、1893年に世界で初めて真珠養殖に成功した島です。

 

鳥羽駅(近鉄・JR)から徒歩5分、橋を渡って入る島内には、真珠について深く学べる博物館や、真珠のジュエリーショップ、海女さんによる実演ショーなど様々な施設や催し物が揃っています。

 

真珠

 

ミキモト真珠島所属の学芸員である大河内さんの案内で、真珠博物館内を巡る橘ケンチさん。館内では真珠養殖の歴史のほか、真珠ができあがる過程などを、実物展示も交えながら学べるようになっています。

 

歴史や科学など様々な分野で深堀された展示はどれも知的好奇心をくすぐるものばかり。橘ケンチさんも興味津々な様子で、ひとつひとつの展示を見て回ります。

 

真珠

養殖真珠の誕生85周年を記念して製作された「ミキモトパールクラウン」

 

館内には、真珠をあしらった宝飾品やオブジェなどが多数展示されています。冒頭に紹介した「自由の鐘」のほかにも、過去の万博に出品されたものが複数展示されており、貴重な品々を前に心が躍ります。

 

世界初。ミキモト真珠島での真珠養殖の成功

 

真珠

 

古来から世界各地で人々を魅了してきた真珠。16世紀まで真珠は、多くの科学者のなかで「雨滴やしずくが凝固したもの」つまり「偶然の産物」という説が信じられていました。

 

その後16世紀半ばになり、ようやく真珠形成についての様々な学説が登場し、真珠がどのようにできあがるかの理論が科学的に解明されつつある状況に。しかし、理論上は分かってきていても、実際に真珠の養殖を成功させることは誰もできていませんでした。

 

そんな中、世界で初めて真珠養殖を成功させることができたのが、ミキモトの創業者・御木本幸吉(みきもとこうきち)だったのです。

 

真珠養殖を成功させた功労者、御木本幸吉

 

真珠

島内に立つ御木本幸吉像と、橘ケンチさん

 

1858年、御⽊本幸吉は鳥羽のうどん屋「阿波幸」の長男として誕生しました。

 

御木本幸吉は青物屋(八百屋)や米屋など様々な商売を経験する中で、志摩の名産品であった真珠の魅力に着目。まずは真珠貝の増殖から始め、やがて真珠そのものの養殖へと挑戦します。

 

そして1893年、御木本幸吉は苦闘の末に、世界で初めて真珠養殖を成功させました。その後、1899年に銀座、1913年にはロンドンに御木本真珠店を出店し、養殖真珠をブランド化させ、日本の重要輸出品へと育てていきました。

 

真珠はどのようにしてできるのか

 

真珠

 

真珠は、生きた真珠貝の体内で作られる宝石です。天然真珠と養殖真珠は具体的にどのようにできあがっていくのかを、大河内さんに模型を使って教えていただきました。

 

真珠

日本の真珠養殖にて用いられる貝「アコヤガイ」に核入れをする模型

 

天然真珠は、貝殻と体のあいだにある膜(外套膜上皮 [がいとうまくじょうひ] 細胞)が何らかのきっかけで組織内に入り込むことで、真珠袋ができ、真珠質が分泌されて真珠が形成されていきます。

 

一方の養殖真珠は、外套膜上皮細胞の切片と、核(貝殻を球状にしたもの)を組織内に移植し、天然真珠で起こる事象を人工的に発生させて真珠を形成させていきます。

 

 大河内さん 「核入れの手術を行った後は、穏やかな内海で20日間ほど養生をして貝の回復を待ち、その後、貝にとって快適な沖の漁場に移し、2年間養殖を行っていきます」

 

なお、核入れした貝を養殖するような良い漁場には、他の生物も繁殖しやすいため、真珠貝には養殖の過程で様々な生物が付着してしまうそう。付着物は貝の中の海水の通りを悪くして貝を弱らせる原因となるため、2年の養殖の期間、定期的に貝を引き上げて掃除が必要となるそうで、養殖真珠が完成されるまでにはかなりの手間がかかることが分かります。

 

真珠養殖に欠かせなかった海女の存在

 

真珠

ミキモト真珠島の海女の実演

 

かつて、海女は真珠養殖において欠かせない存在でした。

 

日本の真珠養殖にて用いられる貝「アコヤ貝」を、海女が海底に潜って採取し、核入れした貝を再び海女が海底へ戻します。また、赤潮や台風の際にも海女が潜水して、いち早く貝を安全な場所に移動させるなど、真珠ができあがるまでに海女が担う役割は、とても大きなものでした。

 

現在は養殖技術が発達し、海女が作業をする必要はなくなりましたが、かつて真珠養殖を支えた海女の活躍を記念するため、ミキモト真珠島では海女による実演が行われています。

 

真珠

 

実演では、海女さんたちが昔ながらの白い磯着を身に着けて海の中に潜り、貝などを獲ってみせてくれます。

 

真珠

 

船上の海女さんたちに手を振る橘ケンチさん。終始明るく笑顔の海女さんたちの実演は、見ている側を朗らかな気持ちにさせてくれます。

 

海女の実演は開館中、1時間ごとに開催されています(2025年8月時点)。ミキモト真珠島を訪れた際は是非ご覧ください。(実演時間はこちら

 

ショップ「パールプラザ」でお気に入りの真珠と出会う

 

真珠

 

ミキモト真珠島には、手軽に購入できるお土産物からハイジュエリーまで幅広く取り揃えられたショップ「パールプラザ」があります。

 

ショップ内のジュエリーは、MIKIMOTOブランドの商品のほか、ミキモト真珠島オリジナルのものも多数扱われており、ここでしか手に入らない特別な品にも出会うことができます。

 

真珠

 

ミキモト真珠島オリジナルの真珠のネックレスを眺める橘ケンチさん。

 

真珠について学んだ後に実物を手にすると、養殖真珠が生み出されるまでの歴史や人々の努力が真珠の輝きに宿っているようで、感動を覚えます。

 

名称

ミキモト真珠島

住所
〒517-8511 鳥羽市鳥羽1-7-1
電話番号
0599-25-2028 (ミキモト真珠島)
料金

大人 1,650円、小・中学生 820円

営業時間

9:00~17:00(季節により変動あり)

休日

12月の第2火曜日より3日間

駐車場

120台
600円/2時間(1時間延長ごとに200円)

公共交通機関でのアクセス

JR・近鉄鳥羽駅から徒歩約5分

車でのアクセス

伊勢自動車道伊勢ICから伊勢・二見・鳥羽ライン終点より5分

 

リトリートステイ「COVA KAKUDA」にて過ごす豊かな時。⾥海再⽣への道のりを知る。

 

真珠

COVA KAKUDA内、ダイニングのあるメイン棟「KAZO」

 

英虞湾(あごわん)の静かな入り江に佇む、1日4組限定のホテル「COVA KAKUDA(コーバ カクダ)」。海と山に囲まれた敷地内には、ヴィラタイプの4つの客室のほか、ダイニングやサウナなどの設備が整えられています。

 

特筆すべきは、COVA KAKUDAが真珠養殖の工場から生まれ変わった建物ということ(工場はコーバと呼ばれていたそう)。1931年創業の老舗企業「覚田真珠」によって、自社の工場であった場所を再活用しながら英虞湾の里海再生を目指すプロジェクトとして、COVA KAKUDAは誕生しました。

 

真珠

 

ホテル内には真珠養殖工場の面影があちこちに。天井の⽊製梁もそのひとつです。

 

洗練されたモダンなデザインと、長い年月を経てきた重厚さを感じさせる工場の名残、それらを包む里海の自然風景が一体となり、唯一無二の空間が創り出されています。

 

真珠

 

英虞湾は入り組んだ地形のため波が穏やかで、山からの養分が海へ流れ込みやすく、貝の餌となるプランクトンが豊富なことから、真珠養殖にとって最適な環境が整っていました。しかし現在、英虞湾の周辺地域では人口減少や高齢化が進んでおり、間伐が行われないことから山に光が入らず森林生態系が変化し、山の養分が海に流れなくなるなど、美しい里海を保つことが困難な状況に置かれています。

 

里海再生の鍵の一つは「人の営み」。人が暮らし、生活排水がある程度流れて海の養分となることで、貝などの海の生物が育ちます。古くから英虞湾沿岸では、人が暮らしながら自然に働きかけることで育まれた恩恵を再び人がいただき、また自然へと返す持続可能なサイクルが繰り返されてきたのです。

 

人が滞在することが、里海再生の一助に。COVA KAKUDAは、人と自然との良い循環を促す新たな形のリトリートステイを提供しています。

 

真珠

ヴィラ「HAMAAGE」

 

4つの客室は全て、⼊り江を望むプライベートヴィラとなっており、穏やかな海のほとりで豊かな滞在時間を過ごすことができます。

 

朝夕は時折、漁業船が入り江を行き交います。英虞湾ならではの原風景に「入り込む」ような感覚が味わえる滞在体験は、COVA KAKUDAだからこそ味わえる特別なものといえそうです。

 

真珠

 

ヴィラ「HAMAAGE」の名は、真珠養殖において貝から真珠を取り出す作業「浜揚げ」に由来するもの。実際に浜揚げを行っていた建物が、天井の梁や基礎など当時の面影を残しつつ、居心地のよい客室へとしつらえられました。

 

真珠

 

どの客室においても、建物やインテリアには地元三重県の木材が用いられており、自然への負荷が少ない形で、⼈の⼿により作られたものが中心となっているそう。美しさや快適さも兼ね備えながら自然環境への配慮もある、心地よい造りとなっています。

 

真珠

 

プライベートウッドデッキでくつろいでいると、まるで海に浮かんでいるような気分に。

 

COVA KAKUDAには、クルージングやカヤック、フィッシングなど、海を存分に楽しめるアクティビティが多数用意されています。

 

また、時期によっては真珠養殖の工場見学や、浜揚げなど、貴重な産業体験も可能。そのほか、厨房スタッフとの魚市場訪問や、薪割り・火起こし体験、草木染など、COVA KAKUDAを取り囲む豊かな環境・暮らしの文化を堪能できるプログラムもあり、里海の日常や風土を心ゆくまで楽しめるようになっています。

 

真珠

入り江を望むパブリックサウナ「SAUNA」

 

COVA KAKUDAの魅力は、2室のパブリックサウナにもあります。1室は自然光を浴びながらオーシャンビューを楽しめる「SAUNA」、隣接するもう1室は、度会郡玉城町宮古(わたらいぐんたまきちょうみやこ)に伝わる神事における潔斎(けっさい)用の石風呂に着想を得た、暗く落ち着いた雰囲気のサウナ「ISHIBURO」と、それぞれ趣の異なる造りとなっています。

 

サウナで体をあたためた後は、目の前の海に体を浸すもよし、半屋外にある冷えた井戸水の水風呂で心身を整えるもよし。いずれの方法も心地よく過ごせそうです。

 

2室のパブリックサウナのほか、ヴィラ「HAMAAGE」や小高い丘の上に位置するヴィラ「MIHARASHI」には、ロウリュを楽しめるプライベートサウナが備わっています。プライベートサウナであれば、サウナと水風呂の後に客室のウッドデッキへと出てゆっくり外気浴をしながら過ごすのも良いかもしれません。

 

真珠

 

サウナの薪ストーブには、英虞湾沿岸に群生するウバメガシが用いられています。

 

豊かな里海を目指すには、山から海へと流れる栄養も欠かせません。かつては人が住み、ウバメガシを間伐して薪にすることで、木々に程よく日が降り注ぎ、健康的な里山を保つことができていました。

 

その後、人が住まなくなったことで荒れ果ててしまった里山を、COVA KAKUDAが手を入れ間伐し、再生への道筋を確保。さらに、かつての人々がそうしたように、畑を耕し、腐葉土の栄養も海へと流れるようにしました。栄養豊富な海のミネラル分は、自然の循環の中で再び大地へと吸収されます。そして肥沃な大地で育まれた恵みはCOVA KAKUDAのダイニングでいただくことができるようになっており、素晴らしい循環が生み出されています。

 

真珠

 

COVA KAKUDAでは、滞在時間を楽しみながらも、里海再生への一助となれる特別な体験が詰まっていました。

 

真珠について学び、真珠を育む里海の現状を知る旅はここまで。真珠や、真珠を生み出す里海の環境を含めて、改めてその貴重さを感じる機会となりました。

 

COVA KAKUDA

【住所】三重県志摩市志摩町片田1397-14
【電話番号】0599-52-0231
【公式URL】https://cova-iseshima.jp/

 

写真 : 鈴木規仁
文 : 駒田早紀(MSLP by new end. Inc.)

 

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