海女について学び、海女小屋で語らいながら海の幸を味わう。EXILE橘ケンチさんが行く鳥羽の海女旅
掲載日:2025.12.18
恵み豊かな伊勢志摩の海とともに暮らしてきた海女たち。今回橘ケンチさんが、海女文化について知るべく、「海の博物館」と海女小屋「相差(おうさつ)かまど」を訪ねました。
橘ケンチさんプロフィール

EXILE及びEXILE THE SECONDのパフォーマー。2007年二代目J Soul Brothersのメンバーに抜擢、2009年3月1日EXILEにパフォーマーとして加入して以降、所属するLDH JAPANの掲げる「日本を元気に」をテーマに活動。現在は2025年11月15日(土)に始まるドームツアー『EXILE LIVE TOUR 2025 “THE REASON”』の開催中である他、先ごろLDH JAPANから6年に一度の〈祭り〉である『LDH PERFECT YEAR 2026』の開催も発表。俳優業に加えて過去には語学力を活かした番組にレギュラー出演するなど多方面で活躍。また、ライフワークとして日本酒の魅力を発信、食のフィールドや地域共生及び社会貢献に対する知見も深めている。2023年SAKEの魅力を網羅した書籍『橘ケンチの日本酒最強バイブル』(宝島社)及び処女小説『パーマネント・ブルー』(文芸春秋)を上梓。2018年13代酒サムライ、2021年福井市食のPR大使、2023年LDH JAPANのSocial Innovation Officerに就任。
【EXILE mobile】https://m.ex-m.jp
海⼥(あま)とは

「海女」とは、素潜りでアワビやサザエ、海藻などを獲る漁を生業とする女性たちのこと。鳥羽・志摩は日本で海女が一番多い地域であり、全国の約半数におよぶ514人(2022年 海の博物館調査)の海女たちが活躍しています。
海女の歴史は古く、三千年も前のものとされる、弥生時代の鳥羽市浦村の白浜遺跡にて、海女の獲物であるアワビの貝殻や、鹿の角製のアワビオコシと呼ばれる道具などが出土していることから、当時すでに海女がいたことは確かだと考えられています。また、『万葉集』には海女漁の様子が詠まれた歌が収められており、江戸時代には浮世絵の題材にもなるなど、古くから海女文化は着目されていたことが分かります。
伊勢志摩の海は、暖かい黒潮の影響と、川を通じてそそがれる森の栄養にも恵まれ、海の生物を育む日本有数の藻場が形成されています。そんな伊勢志摩の豊かな海とともに生き続けてきた海女たちの暮らしや文化について、橘ケンチさんが学んでいきます。
「⿃⽻市⽴海の博物館」で海⼥について学ぶ

海女について学ぶため、鳥羽市立海の博物館を訪れた橘ケンチさん。海の博物館 事務局長である石原真伊さんに案内いただきながら、館内を見学していきます。
海の博物館は、海女にまつわる展示のほか、漁、木造船、海の祭り、海の環境など、海に関する民俗資料を約6万点(内6,879点が国指定重要有形民俗文化財)所蔵・展示している貴重な博物館です。
入館してまず目に留まるのは、広々としていて木の造りが美しい内観と、高い天井から床まで伸びる長いタペストリー。
石原さん 「タペストリーに投影されているのは、海に潜る海女さんの姿です」

海女は“50秒の勝負”と言われているように、息の続く間にできるだけ多くの獲物を獲らなければなりません。
潜る深さは、海女の中でも漁の方法によって違いがあります。自力で潜水して浮上する「徒人(かちど)」は5~8mほどの深さまで潜り、2人組(主に夫婦)で漁を行う「船人(ふなど)」の場合は、海女が15kgほどの重りを使って10~15mまで一気に潜水します。その後、獲物を獲った海女が合図をしたら、船から命綱で海女を引き上げます。
また海女は、50秒間の潜水を何度も繰り返す体力だけでなく、季節や天候、時間帯によって絶えず変わる海の状況や、数多くいる海の生き物の特性を把握し、その場その時で判断するための知恵・経験も必要となります。
日々たくましく漁を務める海女たちの姿を想像しては、圧倒されるばかりです。
海女小屋での団らんのひと時

橘ケンチさんが見ているのは海女小屋の模型展示。海女小屋は、海女たちが漁に出る前後や合間、火にあたって体を温め、ご飯やおやつを食べたり昼寝をしたりして過ごす小屋のことです。
海女小屋では明るく元気な海女たちの間で、会話に花が咲きます。模型では、火を囲み会話を楽しむ海女の姿が忠実に再現されており、展示を通じて海女文化の魅力を垣間見ることができます。

現在でも、鳥羽・志摩地域の沿岸部や離島の漁村には海女小屋が点在しており、漁を終えた海女たちがおしゃべりを楽しみながら休憩して過ごしています。
昔は、屋根のないスペースであったり、藁(わら)や茅(かや)、竹製の海女小屋が作られていたそうですが、現在はコンクリートやトタン製の海女小屋が一般的になりました。時代とともに造りは移り変わっても、海女たちにとって、海女小屋での会話が何よりの楽しみであることに変わりはありません。
伊勢神宮と海女

こちらの展示は、伊勢神宮に奉納される熨斗鮑(のしあわび)の実物です。
鳥羽市国崎(くざき)町では、二千年以上も前から、伊勢神宮に熨斗鮑を奉納し続けてきました。その歴史は古く、伊勢神宮のご鎮座地を探す役目を賜った倭姫命(やまとひめのみこと)が国崎を訪れた際に、「おべん」という海女からアワビを差し出され、そのあまりの美味しさに感動したことが始まりといわれています。
海の博物館は内藤廣による設計

海の博物館では、建物そのものにも注目したい所。海の博物館は内藤廣氏による設計であり、日本文化デザイン賞や日本建築学会賞など多くの賞を受賞しています。
あたたかみのある木造の展示棟や、点在する展示棟を結ぶ広々とした外庭など、それぞれが周辺の自然風景と調和するような落ち着きのある造りで、時間を忘れてじっくりと過ごしたくなります。
船の収蔵庫

続いて橘ケンチさんは、博物館敷地内にある、90艘にのぼる木造船が収められた「船の収蔵庫」へ。
つい50年ほど前まで、日本の漁船はすべて木造船だったといいます。実物の木造船を間近に見ていると、少し昔の、海にまつわる人々の仕事や生活がより身近に感じられるよう。形の異なる船を一挙に見比べられる面白さや、船大工の手仕事を観察する楽しさなど、海の博物館ならではのワクワク感が詰まった場所ともいえそうです。

海女に関するものも含め、民俗資料として各地から集められた数多の展示は、一度では見尽くすことができないほどの膨大さです。「海の人々の生活や文化」と聞くと、広く一般的に知られたもののように感じますが、意外と知らないことばかり。海の博物館ならではの学びや体験を堪能しに、是非足を運んでみてください。
鳥羽市立海の博物館
大人(18歳以上) 800円
大学生以下 400円
3月1日~11月30日 9:00〜17:00
12月1日~2月末日 9:00~16:30
(最終入館は閉館の30分前まで)
船の収蔵庫見学 16:00まで
6月26日~6月30日、12月26日~12月30日
あり
鳥羽バスセンターからかもめバスで約35分海の博物館前下車徒歩すぐ
伊勢ICから伊勢二見鳥羽ライン経由で約35分
海⼥⼩屋「相差かまど」で海の幸を味わう

海の博物館を後にした橘ケンチさんは、続いて、現役海女さんが海の幸をその場で焼いてくれる海女小屋「相差かまど」を訪れました。
鳥羽市相差町は、三重県内で最も多くの海女が暮らしている町です。海女の生活が息づく相差の町にて、海女小屋に入って火を囲み、海女たちが団らんするように過ごしながら、美味しい海の幸をいただきます。

相差かまどでいただくのは、ランチメニュー(1名あたり税込4,300円)です。
メニューには地元の海の幸が取り入れられており、この日は相差で獲れたアジの干物とサザエ、カラフルな貝殻が特徴のヒオウギ貝、ウニとヒジキの炊き込みご飯、ワカメとネギのお味噌汁(焼き餅入り)と、お腹いっぱい海の幸を楽しめる品揃えでした。
ヒジキやワカメも相差で獲れたばかりの新鮮なものとのこと。獲れたてだからこそ味わえる食感や香りを存分に楽しめます。

海女さんが、様々なお話をしながら手際よく⿂介を焼いてくれます。
お話の中で、海女の現状について「昔は相差だけでも400人以上海女がいたけど、今では80人くらいになってしまった。70代が一番多く、30~40代は5人くらい」と教えてくれました。人数の減少や高齢化の要因は、なり手不足のほか、海の「磯焼け(海藻が著しく減少・消失することによりアワビやサザエなどの生物が減少すること)」など、海洋環境の変化による漁獲高の減少も影響しています。
元来、海女たちには、海の資源を絶やさないために、小さいアワビは獲らないことや、潜水の日数を制限するなどの取り決めがなされてきました。そうして海洋資源の保護に努めてきたからこそ、海女漁は連綿と続けられてきました。しかし現在起きている海洋資源の減少は一朝一夕に解決できない問題であり、海女漁の継承にも危機的な状況をもたらしています。
現在、海女の獲物である、アワビやサザエなどの餌となる海藻の繁茂に繋がる活動として、ガンガゼ(海藻を食べてしまうウニの一種)の駆除や、海藻の種苗などが、海女たちの間で行われています。私たちにとっても、海女の活動を知るなどして、自らを取り巻く海洋環境への理解を深めることが大切かもしれません。

炭火の上の魚介が、段々と食べごろになってきました。
アジの干物やイカはふっくら身が熱されて良い香りが漂い、ヒオウギ貝やホタテにサザエはぐつぐつ、じゅわじゅわと網の上で音を立てて、食欲をそそります。

炭火で焼かれた魚介はどれも抜群の旨味と塩味で、橘ケンチさんも「美味しい!」と感動の様子。
ウニとヒジキの炊き込みご飯はほんのりと甘味が感じられ、炭焼きの魚介と良いバランス。みそ汁は新鮮なワカメのシャキシャキとした食感が楽しめます。

美味しいご飯や、明るく朗らかな海女さんとの会話で、橘ケンチさんも自然と笑みがこぼれます。

会話の中で、相差かまどに置かれている海女の道具も見せていただきました。海女さんが持っているのは「タンポ」といい、海上で浮きとして使用するもの。昔は樽や桶を、浮きと獲物入れを兼ねて使っていたそうです。
実物の道具も交えながら海女さんのお話を聞くと、海女文化にますます興味が沸いてきます。

現在、鳥羽・志摩の海女漁は、国の重要無形民俗文化財に指定されており、日本遺産にも登録されています。海の博物館での学びや、相差かまどでの海女さんとの会話、海の幸の味わいはどれも特別で貴重なもの。ふと「また来たいな」と思える、あたたかみが心に残る旅となりました。
海女小屋 相差かまど
■ティータイム(1時間)
・時 間 10時と15時の2回
・料 金 税込2,200円(1名あたり)
・料理内容 お茶・お餅・貝などのおやつ
(伊勢エビ・あわび等は別途料金で追加できます)
■ランチタイム(1時間程度)
・時 間 11時30分~13時30分
・料 金 税込4,300円~(1名あたり)
・料理内容 サザエ・大アサリ・バタ貝・
干物・うに飯など相差で獲れた旬のもの
(伊勢エビ・あわび等は別途料金で追加できます)
体験は完全予約制です。(予約は前日の17時まで)
体験は完全予約制です。(予約は前日の17時まで)
あり
近鉄JR鳥羽駅より、鳥羽市かもめバスで約45分相差下車
鳥羽駅から自家用車で約30分
写真 : 鈴木規仁
文 : 駒田早紀(MSLP by new end. Inc.)
