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自家製酵母の個性派パン屋「木琴堂」(松阪市)でパン作りの奥深さを知る

松阪市飯南町ののどかな山里に、誰もが安心して食べられる自家製酵母のパン屋さん「木琴堂」があります。 店主の竹岡豊美さんが作るパンは、焼き色がしっかりついた、中身の詰まった個性派です。 パン作りにかける思い、大好きな農業、何でも作るライフスタイルなど、竹岡さんの食にかけるこだわりをたっぷりとうかがいました。 唯一無二の手作りパンが生まれる背景もお楽しみください。

記事制作 / みえ旅グルメ部 家田美央

 

みえ旅グルメ部部員の家田美央です。

普段はフリーランスのライター、フォトグラファーとして三重県中を飛び回っています。

第三弾となる今回の記事では、自家製酵母のパン屋さんである松阪市の「木琴堂」さんをご紹介します。

実は私、パンが大好きでして、自分で自家製酵母を起こしてパンを焼いたりしているのです。

そこで今回、「木琴堂」さんのパン作りと、店主の竹岡豊美さんの食べ物に対する思いをお聞きしてきました。

 

▼【木琴堂】目次

飯南町の山里で個性的な自家製酵母パンを製造

「木琴堂」さんは松阪市飯南町の静かな山里にある、自家製酵母のパン屋さんです。

店主の竹岡豊美さんが14年前にこの地で開業され、毎週金曜日と土曜日にお店を開いています。

お店は正午にオープンするため15分ほど前に到着したのですが、もうすでに開店を待つ人がちらほら。

そんな人々の目を楽しませているのが、庭先で飼われているニワトリたち。柵で囲ったりしていないのに、みんなが離れ離れになることもなく、時々鳴き声を上げながら庭先を歩き回り、雑草などをついばんでいます。のどか。

オープン直前には10名弱の来客が列をなし、正午になるといよいよお店がオープン。

パンは一軒家の玄関入ってすぐ、三和土のある少し広い場所に並べられています。

この日は18種類ほどのパンが焼かれており、訪れたお客さんたちは次々と欲しいパンを手にしていきます。

一人で接客も行う竹岡さんは、常連客とお互いの近況を伝え合ったり、初めて来店する人にはおいしいパンの食べ方を説明したりととてもフレンドリー。お客さんとの良好な信頼関係が築けるよう、何より美味しくパンを食べてもらいたいとの心づかいが感じられます。

私が訪れた日は特に販売が良好で、12時30分ごろにはすべて売り切れてしまいました。すごい人気!

「こんな日ばかりじゃないんだけど」

と謙遜する竹岡さんですが、以前私がパンを買いに来た時もオープン前からお客さんが並んでいたので、確実に手に入れたい人は開店時を狙って訪れるのが良さそうです。

店頭にパンは並んでいませんが、その後もお店は開けており、予約分のパンを取りに来るお客さんがぽつぽつと訪れていました。

欲しいパンが決まっている人や、パンの種類はおまかせで良いという人は、事前に電話で予約をしておくのが安心。「ライ麦50%のパン」など、普段店頭に並んでいないパンが欲しい場合も、前日の正午までに連絡すれば特別に作ってもらうことができますよ。

購入したパンを紹介します!

私もいくつかパンを購入したので、ここでご紹介します。

まず1枚目、左上から時計回りで、全粒粉の香ばしさがドライいちじくとくるみによく合う「いちじくとクルミの全粒粉のパン」240円、いちごの甘さとクリームチーズの味があと引くおいしさの「いちごクリームチーズ」240円、ドライフルーツやナッツがたっぷり入った「木の実のパン」270円、豆感たっぷりな白あんの中に桜の塩漬けのしょっぱさがアクセントになる「桜あんのパン」240円。

あんパンのあんもすべて自家製で、北海道産小豆を使った小豆あんや、インゲン豆から炊く白あんは、甘さ控えめで豆の味わいが豊か。桜の塩漬けも毎年桜の時期に手作りしているものです。

2枚目、「ライ麦クッペ」200円、「りんごとシナモンのパン」240円、「塩こうじのパン」150円。

ライ麦を20%加えたクッペは、生地そのものの味わいがしっかり。りんごとシナモンのパンはちょっとしたおやつにもうれしい甘さ。塩こうじのパンは、白ご飯替わりにいただきたいプレーンなおいしさです。

ということで、パン好きの人は特に注目のパンの断面写真をご覧ください(左・いちごクリームチーズ、右・桜あんぱん)。むっちりと詰まったパン生地、豆のつぶつぶが残る白あんなどを見ていただけると思います。

竹岡さんのパンは、自家製酵母、ポストハーベストの心配がない国産の小麦粉(春よ恋)やライ麦粉、ミネラル豊富な自然海塩、できるだけオーガニックのナッツやドライフルーツで作られています。

多くの人に安心して食べてもらえるよう、卵、牛乳、バター、白砂糖、ショートニング、イーストは使っていません。

しっかりと焼き色のついたパンは中身がギュッと詰まって食べ応え満点。噛めば噛むほど旨味が味わえるハード系のパンで、「このパンが一番好き」と県外から通うファンもいる、個性あふれるパンたちです。

店主のこだわりたっぷりなパンの製造現場に潜入!

今回、竹岡さんのご厚意で、次の日に販売するパンの製造現場を見せていただきました。私もパンを作るので、興味津々で厨房へお邪魔します。

厨房は一般的な家庭のもののようですが、どーんと設置された業務用オーブンが目を引きます。このオーブンは南伊勢町にあった病院の食堂で使われていたものを、病院がなくなる際に譲ってもらったものなんだとか。

あれだけしっかりとした焼き色のついたパンを焼くには、やはり火力の強い業務用オーブンが必要なのですね。

それでは、パン生地をこねるところから見せていただきましょう。

レシピはすべて頭の中に入っているという竹岡さん。メモなどは見ず、材料を手際よく計量し混ぜていくのですが、驚いたことに竹岡さんのパンはすべて手ごねでした!

一般的にパン屋さんでは専用のミキサーを使ってパン生地をこねますが、「手でこねる方が生地の状態をよく把握できるので」と、慣れた手ごねでずっと作っているんだそう。その日の天候、気温、湿度などに合わせて水温を変えたりと、長年の経験を活かしたパン作りを行っています。

ボウルの中である程度生地がまとまったら、作業台に取り出し、ぐっと力を入れてこねていきます。何種類もの生地を人の手でこねる、とても体力のいる作業です。

しっかりとした生地ができました。ここから8~10時間ほどかけて、一次発酵を行っていきます。

自家製酵母のパンは、パン専用のイーストを使ったものに比べて発酵する力が弱いため時間がかかりますが、乳酸菌などの副産物も生成されるため、味わいが複雑で個性が出やすくなります。

竹岡さんは小麦粉から起こす酵母、いわゆる「ルヴァン種」と呼ばれるものをお店の開業時より継ぎ足しながら使用しています。趣味でパンを焼いていたときは季節の果物などを使ってさまざまな酵母を起こしていたそうですが、季節を問わず安定して使えるルヴァン種をお店では使っているそうです。

続いて、パンの成形作業を見ていきます。

ライ麦が入った生地を計量して切り分け、形にしていきます。

「パン作りを習ったことがないから、これが正しい作り方なのかわからない。恥ずかしいわ」と笑う竹岡さん。

パン屋をする前に10年ほど独学でパン作りをしていたそうですが、そこでたくさんの失敗を経験。その度に原因を考え、解説策を模索したことで、自分が作りたいと思うパンが作れるようになったそうです。

「そうやって考えて作ることが楽しい」と、パン作りの魅力を話してくれました。

成形したパンを発酵器に入れ、二次発酵が終わるまでの時間でお話を聞きました。

 

昔からずっと農業が好きだった竹岡さん。以前は保育士として働いていましたが、農業に本腰を入れるにあたり、「何か人と触れ合える仕事もしよう」とパン屋を開業することを思い立ちます。

現在は、無農薬、無肥料、不耕起栽培の農業で家族が食べる分の農作物を栽培しています。さらに、醤油、味噌、漬物(梅干し、たくあん、白菜漬け、奈良漬け)などを手作りし、養蜂ではちみつまで採取するなど、竹岡さんの美味しいものへのこだわりは多岐にわたっています。

「これも無農薬のお茶なのよ」といれていただいた緑茶と、前の畑で採れたハヤトウリを使った手作りの奈良漬け、ライ麦パンを一緒にいただきます。緑茶はとても華やかな香りで優しい味、奈良漬けとライ麦パンの意外過ぎる相性の良さに驚きながら、食べる手が止まりません。

その後は、自家栽培の原木しいたけ(干ししいたけを作っている途中でした)、庭で飼う鴨やニワトリの生みたて卵、3年前に仕込んだ味噌、自家採種をした野菜の苗づくりなど、竹岡さんの暮らしぶりを見せていただき、感心することばかり。

「凝り性だから、凝り始めると止まらなくて」と笑います。いや、すごいです!!

好きなパン屋さんの情報交換などをしているうちにライ麦パンの二次発酵が終わりました。

すっすっと手際よくクープ(切り込み)を入れたらオーブンへ。小窓から焼きあがる様子を見ながら、細かく温度調節をしたりと、最後まで気を抜くことなく、パンへの愛情たっぷりです。

焼きあがったパンはとても良い香り。パリッと焼きあがったクラスト(皮)の香ばしさ、むっちりと詰まったクラム(内層)には素朴なライ麦の風味が感じられ、それでいて食べる人を選ばない懐の広い味わいです。

「自家製酵母のパン作りの面白さは、何も入れなくても目に見えない微生物の力で膨らんでパンができること。微生物が相手なので、自分の思い通りにならないところも面白い。理想を追い求めればきりがないので、今後もずっと修行です」

自分が好きで、家族が安心して食べられるパンを、状況が許す限り、今後もずっと作っていくそう。

メロンパン、高級食パン、マリトッツォなど、さまざまなパンのブームがありますが、そういう世間の流れとは一線を画した、個性的で唯一無二なパンを今後も応援していきたい、取材をしてそう強く感じました。

そして、私も生活に根差したパンを作りたいという思いに駆られました。

竹岡さん、ありがとうございました。

木琴堂の営業案内・アクセス・地図

【住所】   松阪市飯南町横野663

【電話番号】 090-5455-2314

【営業時間】 12:00~売り切れるまで ※変更の場合あり

【営業日】  金曜日、土曜日

【公共交通機関でのアクセス】

・松阪駅から三重交通バス飯南波瀬線「柿野」バス停、下車後徒歩約10分

【車でのアクセス】

・松阪駅から国道166号経由、約35分

【駐車場】  6台

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