極上の休息を。三重県

中南勢

御食つ国
美食に出会う旅

三重の恵みを巡るガストロノミー

中南勢地域は、清流や渓谷など豊かな自然を有し、肉の芸術品・松阪牛の産地としても名高いエリア。同地域には、特産松阪牛の畜産農家が直営するレストランや、厳選された地元産食材が集結する産直市場、「食の美術館」としてプロデュースされた飲食施設などがあり、様々な形で三重の食材に出会うことが可能。
中南勢地域にてこだわりと愛情を持って三重の食材に携わる人々を訪ね、その思いに触れるガストロノミーツアーへと出かけてみる。

目次

松本畜産が丁寧に作り上げる特産松阪牛。きめの細かいサシが美しい。

1.わずか4% 稀少な特産松阪牛

肉の芸術品と称されるブランド牛「松阪牛」の中でも、年間わずか4%ほどしか生産されない大変貴重な「特産松阪牛」。
特産松阪牛は、松阪牛の中でも特に限られた生育条件を満たすものだけが、その名を冠することが出来る。その条件とは、但馬地方をはじめとする兵庫県より生後約8ヶ月の選び抜いた子牛を導入し、松阪牛生産区域で900日以上肥育すること。通常の松阪牛よりも長期間肥育を行うことで、きめの細かいサシ(霜降り)や、柔らかい肉質、凝縮された旨味など、格別な味わいが生まれる。

牛を長期間肥育し、クオリティの高い肉質に育て上げるためには、熟練の農家による匠の技が不可欠。
ここからは三重県多気町で代々100年以上にわたり特産松阪牛を育てる松本畜産にて、代表・松本しのぶさん、松本一則さん夫妻にお話を伺う。

環境、時間、愛情。全て揃ってこそ育つ「特産」

三重県多気町は、全国有数の清流として知られている宮川の流域にあり、温暖な気候の地域。
松本一則さん「冬もあまり寒くならないので、牛たちにとって過ごしやすい環境だと思います。暖かい季節になったら牛舎の外に出して、1頭1頭丁寧にシャンプーをして、ブラッシングをかけていくんです。そうすると血流が良くなり、さらに肉質が柔らかくなります」
そう話しながら松本一則さんが牛の方に手をやると、牛は安心した様子で顔を預ける。常日頃より築き上げてきた、牛と人との関係性が垣間見えた。

松本畜産には、いくつもの牛舎がある。
「成長過程に合わせて、どんどん牛舎を移していっているんですよ」と松本一則さん。
「牛が小さいうちは4頭のグループを1つの柵に入れて育てていき、2年目は2頭ずつ、最終年となる3年目は1柵の中に1頭のみという形で、広々と過ごせるようにしています」
牛にストレスを与えないことが、肉質の良しあしに大きく影響を及ぼすそう。手間もコストもかかる肥育方法であるが、それゆえに、高品質な特産松阪牛へと育てあげることが可能となるのだ。

牛たちの主食は稲わら。松本畜産では、地元の稲作農家と連携しコシヒカリの稲わらを主食として牛に与えている。
松本しのぶさん「近隣の農家さんにお願いをして、藁を自分たちで集めに行っています。牛が排出する糞尿は堆肥に変えて、農家さんの田んぼに撒きに行かせてもらうという、循環の形をとっています」

主食となる稲わら以外にも、そばがら、ゴマやエゴマの搾りかす、胃の中を調整する効果があるとされる醤油かすなど、エサには沢山のこだわりが詰まっている。それらを牛たちの成長過程や、食欲など時々の状態に合わせて、独自に配合、分量を調整するそうだ。
松本一則さん「牛の成長過程には前期・中期・後期とあり、その過程に合わせて配合したエサを与えています。仕上げとなる後期は肉の味に直結するため、特に気を使いますね」

高度な肥育技術が求められる中、毎年25~30頭の特産松阪牛を出荷し続けている松本畜産。
「大変でしょう?」と伺うと、松本一則さんは「よくそのように言っていただくのですが、大変だとは感じません」と、穏やかな様子で返答してくださった。「ただ美味しいものを届けたいんです」と話す松本さんの眼差しには、生産者としての誇り、特産松阪牛を愛する思いが満ちているようだった。

特産松阪牛の味わいを堪能する

松本畜産には、特産松阪牛を美味しく味わえる「カフェまつもと」が併設されている。
木の温もりが感じられるカフェスタイルの店構えが印象的。松本畜産の「気兼ねなく特産松阪牛を味わって欲しい」という思いが伝わってくるようだ。

特産松阪牛を熟知している農家だからこそ提供できる味わいが、カフェまつもとにはある。
「すき焼き一つとっても、同じ厚さで肉を切るのではなく、個体差や、部位による差をふまえて、一番美味しい厚みで切るようにしています」と、松本しのぶさん。

「まつもとランチ」は、特産松阪牛の薄切り肉を、すき焼き風のソースで美味しくいただける定番メニュー。
食べてみると、特産松阪牛の柔らかく繊細な食感、肉の濃厚な旨味、甘辛いソースの風味が口いっぱいに広がる。
松本しのぶさん「特産松阪牛の特徴は、脂の融点の低さです。一般的な牛肉は22~25度ほどと言われていますが、松本畜産の特産松阪牛は、おおよそ17度と、かなり低い。人の体温よりも低いので、口に入れるとすぐに脂が溶けます。肉の脂特有のベタベタ感がなく、さらっと召し上がっていただけるんですよ」
普段さっぱりとした味わいの赤身肉を好む方であっても「おかわりしたいくらい」と、くどさのない脂の味わいに感動されるそうだ。

さらに、松阪牛の調理法としてスタンダードなのは、すき焼きやステーキ、焼肉などだが、「松本畜産の特産松阪牛の味わい方の一つとしてお勧めなのがローストビーフ」と松本しのぶさんは話す。
低温で3時間加熱し、1時間ほどかけて焼き目を付けるといった手間のかかる調理法で引き出されたローストビーフの味わいは、かみしめるごとに「特産松阪牛そのものの旨味」を目いっぱい感じられる。

メインの特産松阪牛のほか、付け合わせの野菜やお米、デザートも地元産にこだわっている。
カフェまつもとには地元農家の方々もよく訪れる。時折「美味しい野菜が沢山採れたから、まつもとカフェで調理して欲しい」と加工の依頼も舞い込むそうだ。そして、持ち込んだ農家の方自身も、加工後の総菜などを購入しに再び来店するとのこと。地域のコミュニティで「美味しい食の循環」を生み出しているようだ。

「この地域の人たちは『良いものを育てて、みんなで美味しく食べる』ということが当たり前の考えとして根付いているんです」と松本一則さんは話す。地産地消の魅力が、松本さんの一言に詰まっていた。

2.御食つ国・三重。豊富な食材に感動

三重県の山間部、多気町にある商業リゾート施設「VISON」。
「癒・食・知」をテーマに掲げるVISONには、ホテルや温浴施設、産直市場、飲食店など、約70店舗が出店。VISON内にある「マルシェ ヴィソン」エリアは、パリで1つ星を獲得した手島竜司氏監修の産直市場で、松阪牛や伊勢海老・鮑などの名産品のほか、三重を中心とした海・山の幸を提供する店舗が集結している。

「美しい村」が名前の由来のVISON。スタイリッシュな建築と自然が調和した空間が一帯に広がる。

美味しい青果と出会える市場

マルシェ ヴィソン内にある青果市場は、三重県や周辺地域において、こだわりを持って青果を育てる生産者や事業者を応援するコーナーだ。

この青果市場は、ほぼ毎日、試食のコーナーが設けられている。
「こだわりの青果の美味しさを体感してもらう機会を大切にしている」そうだ。

青果担当の方は「極早生みかんという青いみかんがあるのですが、見た目で判断して『甘く無さそう』と思う方が大半です。実際に食べていただくと、その甘さに驚かれるんですよ」と話してくださった。
極早生みかんが栽培されている三重県南部は、みかん栽培に適した温暖な気候が特徴。土壌は水はけが良く、みかんが水分を多く含み過ぎない。そのため実に甘みが凝縮されるのだ。

「青さと甘さのギャップに驚いてほしい」と、見た目にのみ捉われることなく、ただただ「本当に美味しくて良い青果を知ってほしい」という想いに溢れた一言が印象的であった。

「VISONには三重県外からのお客様も多く来られます。美味しい青果を通じて、三重県の魅力を知っていただきたいですね」
それぞれの食材が持つ魅力や三重県産ならではの味わいを深く理解し、「一番美味しい時期に味わってもらいたい」と旬を見極め、大切に商品を取り扱う青果市場。是非、美味しい三重の青果との出会いを体感してみて欲しい。

三重の新鮮な魚介が集結

度会町に本店を構える鈴木水産は、伊勢・志摩・南伊勢の地元の魚介を中心に、鮮度の高い魚介類を取り揃えている。

活〆された伊勢真鯛の刺身を乗せた炊き込みご飯茶漬けは、鈴木水産こだわりのメニュー。
伊勢真鯛は、南伊勢町のブランド魚だ。三重県の特産品である海藻や柑橘類、茶葉の粉末を混ぜたエサで育ち、脂感が抑えられた上品な味わいが特徴。引き締まった身質で、かみしめるごとに旨みが感じられる。

度会町の本店にて30年来培われてきた鮮魚の取り扱い技術、加工のアイデアが、VISON店でも存分に生かされている。
炊き込みご飯茶漬けに使用されている伊勢真鯛は捌きたての新鮮なもの。伊勢真鯛の繊細で上質な旨味を活かす形で、ローストナッツやゴマダレ、みょうが・ネギなどの薬味が添えられており、炊き込みご飯とともに味わった後は、熱々の出汁をかけて茶漬けでサラリといただく。ナッツや薬味の食感も相まって、箸がとまらない一品となっている。

マルシェ ヴィソン内を歩いていると、海鮮を焼く良い香りが漂ってくる。
香りの正体は「海女小屋 なか川」。三重県鳥羽市で3世代に渡り海女を続ける中川さん一家が営むお店だ。

鳥羽・志摩は全国の約半数の海女が活躍する海女のまち。しかし近年は少子高齢化等に伴い、海女の数が大幅に減少。そのような状況をふまえると、海女の一家が営む飲食店は大変貴重に思う。

鮑やはまぐり、サザエなど新鮮な魚介が取り揃えられており、それらを豪快に網焼きでいただく。どれも食感・歯ごたえが絶妙で、濃縮された旨味が口いっぱいに広がる。
また、海女小屋 なか川では、漁師でもあり、西洋料理店にて修行をしたシェフこだわりの創作魚介料理も味わえる。新鮮さをダイレクトに味わえる刺身や網焼き、繊細な創作料理まで、海の幸を巡る様々な味わいを堪能してみてはいかがだろうか。

3.三重を味わう食の美術館

VISONを訪れた際は、「AT CHEF MUSEUM」にも足を運びたい。
AT CHEF MUSEUMは2023年7月にVISON内でオープンした飲食施設。
「シェフの料理を作品に見立てた【食の美術館】」というコンセプトのもと、ミシュラン星付きシェフ7名を含む全国の有名シェフ・ソムリエ18名が、それぞれ料理をプロデュース。三重県産の食材がふんだんに使用された、“特別な” 美食を楽しむことが出来る。

ここからは、AT CHEF MUSEUMへのシェフの誘致や、シェフたちとともに各メニューのプロデュースを行うなど、企画から携わってきた料理責任者の田中弓普さんにお話を伺う。

田中弓普さん「AT CHEF MUSEUMでは、紹介制の高級レストランや一つ星獲得店など有名シェフ・ソムリエたちによる料理やスイーツ、ドリンクを、その作品性は高いままに、リーズナブルな価格帯で味わっていただくという点にとにかくこだわりました」(11~15時のチケット制。1枚 700円 / 3枚 2,000円)

「三重の食の聖地を目指す」として、各メニューには三重の食材が使用されており、有名シェフたちによる独自のアプローチで、食材の魅力が引き出されている。

函館市にある「RESTAURANTE VASCU 」深谷シェフによる「松阪牛のカルドッソ」には、松阪牛のほか、鈴鹿市産の「夢ちゃんしいたけ」、三重県産米の「みえそだち」が使用されている。

カルドッソというのは、スペイン風雑炊ともいわれる、スペインのお米料理だ。
松阪牛は黒毛和牛特有の「和牛香」と呼ばれる甘く深みを感じる上品な香りや、濃縮された旨味が特徴。夢ちゃんしいたけは、鈴鹿山脈の麓、鈴鹿市大久保町で育てられたしいたけ。原材料から全て国産にこだわり、丁寧に栽培された肉厚なしいたけは、旨味・香り共に抜群。
「しっかり煮詰めることで、松阪牛と椎茸の旨味が濃縮されます」と田中弓普さん。煮詰める過程で三重県産米・みえそだちにも旨味がしみ渡る。オリーブオイルやニンニクの香りと、スペインハモンセラーノの生ハムの程よい塩気も相まって、食が進む一品となっている。

東京六本木にある「le sputnik」高橋シェフによる「伊勢茶のエアインアイス/柑橘」は、通常のアイスの3倍の空気を含ませ、−200℃で凍らせた伊勢茶のエアインアイスが特徴的。空気を多く含んでいることで、サクっとした食感やふんわり感など、独特な口当たりを楽しむことが出来る。口の中でアイスがとろける瞬間、伊勢茶の風味もしっかりと感じられる。

伊勢茶は生産量全国3位を誇るブランド茶である。その歴史は古く、900年代初め頃の古文書にて、三重県でお茶の樹が植栽されたという記録も。コクのある濃い味わいが特徴だ。
伊勢茶のエアインアイス/柑橘の全体はパフェ仕立てとなっており、山椒のクランベ、バニラアイスクリーム、伊勢茶のジュレ、柑橘などで魅惑の多層構造が作られている。松阪市で生産されたエディブルフラワーの彩も美しい。

伊勢市の「Bon Vivant」河瀬シェフは、フランスの伝統的な家庭料理クロックムッシュから着想を得た「クロックぶっシュ」を考案。
河瀬シェフは伊勢市出身。東京での修行を得たのちに、地元伊勢市でBon Vivantをオープンさせた。地産地消の精神を大切にし、仲間のシェフたちとともに伊勢の美食を広めるイベントを開催するなど、地元の食文化振興にも取り組んでいる。

クロックぶっシュは、食パンの上に三重県産のお米を食べて育った「お米豚」のローストがたっぷりと乗せられている。ローストポークは、伊勢にて江戸文化13年(1816年)より営まれている老舗醸造元「糀屋」の甘酒「糀ドリンク」で漬け込まれており、肉は柔らかい食感で、お米豚のほんのりと甘い香りが、さらに引き立てられている。同じく糀屋の糀を使い甘く仕上げたブラウンソースがアクセントになって、特別な味わいであった。

いずれのメニューも「三重の食材を魅せる」味わい・デザインで、まさに芸術品のよう。三重の食材の豊かさにも改めて驚かされた。

御食つ国は自然と共にある

美しい器は、料理をさらに引き立ててくれる。AT CHEF MUSEUMにて、シェフたちの作品を絵画の額のように美しく縁取るのは「WASARA」というペーパープロダクト。
洗練されたデザインもさることながら、土に還る材質で環境に優しい点も大きな特徴だ。

田中弓普さん「WASARAを使用することで、シェフたちが作り上げた料理の見た目を損なうことなく、1品700円という価格帯に抑えることに成功しました。WASARA製造会社様が、『美しい食の作品を幅広い方々に味わっていただきたい』というAT CHEF MUSEUMのコンセプトや、『自然と共に生き・生かされていく、美しい循環をめざす』というVISONのコンセプトに賛同してくださったからこそ成しえたものとなります」

地産地消の食材、それらを美しく活かすシェフたちの技術、美味しい食を生み出してくれる自然を大切にする器。一品一品に込められた想いに目を向けることで、味わいが一層深まっていく。

知ることで感じる味わいの奥深さ

食材の産地を訪れること、生産・流通・加工・調理など「食」に熱意を持って携わる人々の思いを知ること、そして実際に味わうこと。こういった行動を介することで、ただ「食べる」だけでは決して得られない感動に出会える。ぜひ中南勢地域へと出かけ、食に携わる人々の想いに直接触れてみて欲しい。

住所などの情報

【特産松阪牛お肉料理 カフェ まつもと】
〒519-2175 多気郡多気町前村1808
[TEL]0598-39-3368

【VISON】
〒519-2170 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1
[TEL]0598-39-3190

【マルシェ ヴィソン】
〒519-2170 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 マルシェ38
[TEL]0598-67-2408

【鈴木水産 VISON店】
〒519-2170 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 マルシェ8
[TEL]0598-39-3190

【海女小屋 なか川】
〒519-2170 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 マルシェ6
[TEL]0598-67-9466

【AT CHEF MUSEUM】
〒519-2170 三重県多気郡多気町ヴィソン672番1 食祭1
[TEL]0598-67-2921

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